韓国のプラレール事業展開の歴史
タカラトミー社の「プラレール」が韓国においてどのように展開されているのかを調べてみました。
1990年代
ヨン実業によるトーマスシリーズの展開
韓国国内でのプラレールの事業展開の歴史はそのままトミー(→タカラトミー)本体の韓国内での事業展開の歴史ともいえます。2020年代の今でこそ、タカラトミーが現地法人経由で同社の製品を販売していますが、まだ海外地盤の弱かった1990年代までは、現地のおもちゃ会社とライセンス契約を結び、その会社のライセンスの元おもちゃを輸出、委託販売を行っていました。
その韓国国内で、初めてプラレールの販売を担当したのが「ヨン実業」です。このヨン実業は1980年代にソウルにて起業した玩具メーカーで、オリジナルの女児向けブランド「ジュジュ」の他、日系企業のおもちゃの輸入販売を行っていました。一番のお得意先はバンダイだったようですが、この時代のトミーの製品も韓国での販売の際は全てこのヨン実業を通して行われていました。よって、プラレールシリーズもこのヨン実業ライセンスの元韓国国内で展開されることになります。ちなみにCMも放映されていました。
私が調べた限り、ヨン実業が販売したプラレールは「トーマスシリーズ」のみだったようです。また「プラレール」というブランドは使われず「きかんしゃトーマスとなかまたち」のブランドで販売されていたものと思われます。
韓国のwikiサイト「ナムウィキ」のヨン実業記事の取り扱い商品一覧に「プラレール」の文字はありませんし、CMにも一切「プラレール」の単語が出てこないことから、「プラレール」のライセンスは取っていなかったことが伺えます。
正確な時期は分かりませんが、2000年代には「プラレールトーマス」の販売はヨン実業から「HI貿易」に移されたのでしょう。以降、ヨン実業からプラレールが発売されることはありませんでした。しかし、トミーとヨン実業の関係は意外な形で復活することになります。
トミー提携解消後のヨン実業
せっかくですので、トミーとの関係が切れた後のヨン実業がどのような道を歩んでいったのかをご紹介します。1990年代の中盤までは優良おもちゃメーカーとして名をはせていましたが、1997年のIMF通貨危機をきっかけに存亡の危機に立たされ、以後何度も経営的な浮き沈みを経験することになります。
しばらくは苦しい時代が続きますが、2009年に「変身自動車トボット」シリーズの大ヒットを受け、それまでの5~6倍の収益をたたき出すことに成功し、韓国の代表的なおもちゃメーカーへと成長します。以降「ジュジュ」や「トボット」などのオリジナルブランドを展開する傍ら、日米などの輸入玩具の販売も行っています。
スポンサードリンク2000年代
謎に包まれた2000年代の韓国プラレール
ここから21世紀に入りますが、2000年代の韓国でのプラレールの展開は「謎」としか言いようがなく、かなり情報が限られているのが実情です。強いて言えばプラレールトーマスの権利が2009年までにはヨン実業からHI貿易に移されていたらしい、ということくらいでしょう。
参考にさせていただいたでろいさんのブログによれば、欧米向けの「TOMICA WORLD」名義の箱に韓国語の説明シールが貼られたプラレールトーマスセットが韓国で売られていたのが確認されています(2004年?)。また、欧米でのプラレールトーマスの事業撤退の時に、売れ残ったと見られる車両製品が韓国の百貨店で販売されていたとの報告もありました(2011年)。
また、X(旧Twitter)でフォロワーさんからいただいた情報には、2009年に英米向けパッケージに韓国語のシールを貼った製品が販売されていたようです。
しかし、実車をモデルにした商品が売られていたとの情報は出てきません。そのため、2000年代から継続してプラレールトーマスシリーズのみ展開されていたのが実際の所なのでしょう。
韓国におけるトミー(→タカラトミー)の動き
とまぁ、こんな「調べたけど何も分かりませんでした!」ではどうしようもないので、2000年代から2010年代前半に至るまで、トミー(→タカラトミー)が韓国でどのように事業展開していたのかをご紹介します。
一見プラレールの話から脱線するように見えますが、今現在のプラレール韓国進出の形態に大きな影響を及ぼしているので、ここに記しておきます。
孫悟空との提携と決別
1992年、当時のタカラは韓国の玩具メーカー、孫悟空(ソノゴン)と正式契約を結びました。
1994年にタカラのライセンス生産品「伝説の勇者ダ・カーン」が大ヒット。これを機に会社の業績は一気に上向きとなり、韓国を代表する玩具メーカーへと上り詰めたのでした。
その後、タカラがトミーに吸収されると、孫悟空はトミー系製品の輸入販売も請け負うことになります。参考にしたブログによれば2011年からプラレールも孫悟空経由で流通し始めたそうです。実際に2013年に韓国のトイザらスにてプラレールが売っていた!との情報がアメブロにもあります。
こうして持ちつ持たれつの関係を保っていたタカラトミーと孫悟空でしたが、ある出来事をきっかけに決定的に関係が崩壊してしまいました。
それが2013年に孫悟空が独自に展開した「トッププレート」シリーズ。これが「ベイブレード」に似ているとしてタカラトミーと孫悟空の間で論争となってしまいます。これをきっかけにタカラトミーは徐々に孫悟空との提携範囲を狭めていき、最後は完全に提携関係を切ってしまいます。
孫悟空との提携解消の後はプラモデル製作会社「科学アカデミー」などと提携しますが、最終的にタカラトミーの現地法人「T-ARTS KOREA」を通じた独力での韓国市場開拓に挑むことになります。
ちなみに、孫悟空との決別のきっかけとなった「ベイブレード」は2016年に韓国で再展開されることになりました。こちらは「T-ARTS KOREA」ではなく、韓国の玩具メーカーが販売元に選ばれたのですが、なんとこの玩具メーカーがあのヨン実業なのです。現在でも韓国版ベイブレードのCMにはタカラトミーとヨン実業のロゴが連名で記載されています。かつてプラレールトーマスで提携していた両者が再び手を組むなんて面白いですよね。
2010年代~現在
現地法人T-ARTS KOREAの設立
さて、前述した通り、孫悟空とのいざこざからタカラトミーは独力での韓国市場の切り開きに挑むことになります。と言うわけで、グループ会社である「T-ARTS KOREA」を通じて同社製品を売り出しはじめました。
しかし、この「T-ARTS KOREA」、タカラトミーの海外法人の中では極めて特殊な生い立ちを持つ会社なのです。
どういうことか?と申しますと、実はタカラトミーの海外法人は、欧米の場合は「TOMY International,Inc.」、アジア圏の場合は「TOMY (THAILAND) LTD.」のように、「TOMY」の名が冠されます(※”TAKARA”は付きません)。なので、韓国法人の場合は「TOMY (KOREA) LTD.」になって然るべきなのですが、実際の韓国法人の名称は「T-ARTS KOREA Company,Ltd.」。一体これはどういうことなのでしょう?
実は「T-ARTS KOREA」は「タカラトミー」ではなく、その子会社「タカラトミーアーツ」の現地法人として設立された会社なのです。そして「タカラトミーアーツ」と聞いてピンときたあなたは、間違いなく「カププラ」マニアなハズ。この「タカラトミーアーツ」とはタカラトミーグループの中でもカプセル玩具(いわゆるガチャガチャ)を担当する会社であり、プラレールのガチャガチャ版「カプセルプラレール」の製造を行っています。
そんなタカラトミーアーツが韓国市場に関わり出したのが2007年。先行して韓国でガチャガチャの展開を行っていた日系企業をユージン(トミーの子会社でカプセルトイを製造)が買収したところから始まります。その後、2009年に組織再編が行われ、ユージンがタカラトミーアーツへと改称。これと同時にユージンの韓国法人の名前も「トミーユージンコリア」から「T-ARTS KOREA」に改称したものと思われます。ちなみに「T-ARTS」とは「タカラトミーアーツ」の英語圏での略称です。
以降、韓国国内にてカプセルトイの事業を続けていましたが、2013年よりタカラトミー本体で製造していた一般玩具の取り扱いも開始。そして孫悟空との関係悪化に呼応するようにその規模を拡大していき、2015年にはトミカ・プラレールブランドの取り扱いもスタートします。
長々と書きましたが簡単にまとめると、韓国にはガチャブランドとして先に「T-ARTS KOREA」が存在しており、そこを一般玩具(含プラレール)も担当するようになった。と言うのが、タカラトミーの韓国展開のあらましです。他の国ではタカラトミーが直接現地法人を作っているので、タカラトミーアーツが一般玩具も担当しているのは韓国にしかない特色でしょう。ちなみに、韓国でのタカラトミーアーツのガチャガチャ市場のシェア率は約半分を占めているとか。地味にすごい。
タカラトミー資本での韓国進出開始
というわけで、2015年にT-ARTS KOREAのもと韓国で展開されることになったプラレール。タカラトミーグループ内で直接販売できるようになったためか、商品名部分をハングルにしたパッケージの商品も発売されるようになりました。その後欧米向けの英語パッケージや、日本語そのままのパッケージなど、日英韓それぞれの言語を織り交ぜたようなラインナップになっていますが、タカラトミー独自資本で安定した商品展開を見せているようです。
そして大きな転換点となったのが2019年。なんと韓国高速鉄道KTXをモデルにした製品が発売されました。これは日本においてもかなり衝撃を持って迎えられた出来事で、日本のプラレーラーが韓国に出向いたり、その人を経由して購入していたのを覚えています。私もプラレーラーの方から一本購入させていただきました。
なお、現在韓国にて展開されているプラレール商品は下記のT-ARTS KOREAの商品紹介ページから見ることが出来ます。日本では見ることの少ない韓国語のパッケージやセットなどが見れてとても面白いですよ!
プラレールトーマスはT-ARTSに非ず?
と、上記までの流れでT-ARTS KOREAが韓国国内におけるプラレールの流通を担当することになったのですが、よく見てみるとT-ARTS KOREAのウェブページにはトーマスシリーズの商品が紹介されていません。ですが「韓国 プラレール」でGoogle検索をしてみると、韓国の百貨店でプラレールトーマスが販売されている様子がアップロードされているのが見て取れます。それどころか、韓国版パッケージのトーマスセットもよく見かけますね。これはどういうことなのか。
種明かしをすると、韓国内でトーマスシリーズの商品の販売権は「HI貿易(Joytoyz)」という会社が持っており、T-ARTS KOREAが販売することは出来ません。なので、タカラトミーのプラレールトーマスシリーズもこのHI貿易を通じて流通が行われていますし、T-ARTS KOREAのウェブページでも紹介されていなかったのですね。調べた限りだと日本と商品ラインナップは変わらないみたいです。
しかし、韓国ではきかんしゃトーマスの認知度は低いらしく、プラレールトーマスシリーズの専用サイトは存在しないようです。かろうじて韓国版プラレールトーマスの商品紹介をしているショッピングサイトのページを見つけることが出来たので、それでHI貿易が韓国国内でのトーマスの権利を握っていることを確認しました。
ただ、認知度が低いと言えども韓国語版のパッケージを用意しており、結構本気度が高いことが伺えます。
ちなみに「ハイパーガーディアン」や「ドラえもん列車」などもHI貿易経由で発売されていたみたいです。ドラえもん列車については、おもちゃんねるんさんの動画からパッケージに「販売元:HI貿易」の文章を見ることができます。2009年ごろに発売されていた製品なので、この時期にはすでに版権もののプラレールの流通をHI貿易が担当していたことが分かりますね。
あと、レール単体部品も何故かHI貿易でしか取り扱ってないとか。T-ARTS KOREAではレールはセットに同梱されているものしか売っていないため、拡張レイアウトを作る際は両者の製品を上手く買い揃える必要があります。
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韓国でプラレールはどのような存在なのか?
最後に、韓国においてプラレールがどのように認知されているのかを解説してこの記事を閉じようと思います。
今回の「韓国プラレール事業展開の歴史」を書く際に参考にしたのが「ナムウィキ」というwikiサイト。韓国資本で運営される百科事典系wikiサイトで、韓国国内ではWikipediaよりもコンテンツが充実しています。当然「プラレール」のページもあります。
ナムウィキは必ずしもWikipediaのような厳密な客観性に基づいて書かれているわけではなく、pixiv大百科のように筆者の主観的意見も載っていることも特徴です。なので、韓国の人がプラレールにどんな感覚を持っているのかを知るはもってこいです。
ナムウィキによれば、そもそも韓国は日本ほど鉄道趣味が発達しておらず、特に鉄道模型は完全に発達途上なのだそう。そのような中、大型百貨店に行けば3万〜4万ウォン(日本円で3000〜4000円)で購入出来るプラレールは鉄道模型入門にうってつけなのだとか。
しかし、プラレールの本場でない故の買い集めのしにくさは隠しようがなく、特にレール部品の収集には苦労するとか。本格的に収集しようとすると日本のネットショッピングを利用するしかなく、お金も時間もかかるそうです。
また、意外と苦労するのが電池で、規格こそ日韓共通ですが、韓国では単二電池が一般的ではなく、単三電池の方がより広く使用されます。そのため、旧メカよりも近年の新メカの方が韓国の人にとってはありがたいみたいです。
と、韓国でプラレールを遊ぶにはそれなりの制限はありますが、愛してくれる人は沢山おり、2019年のKTX発売も喜びを持って迎えられたようです。
2025年もまだまだ商品展開は続いており、これからも流通は続いていくと思われます。韓国でどんな成長を見せてくれるのか楽しみですね!
参考文献
ナムウィキ
T-ARTS KOREA
個人ブログ
키리남킴 “[토미카-프라레일]프라레일(Pla-Rail, プラレ-ル) 에 관하여 (2)”
でろい “【プラレール研究②】海外プラレールの歴史 中国、韓国編”
でろい “【プラレール研究④】海外プラレールの歴史 韓国編 改”
0系 “韓国で買ったプラレール100系“
X(旧Twitter)
更新記録
2025年1月13日 初版
2025年1月14日 「HI貿易」が「Joytoyz」のブランドを使用していることを確認。その他、Xなどからの情報を追記。